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抑止力の裏事情〜罰金が有効とは限らない

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車を持っていれば、駐禁切符を切られた経験のある人も少なくないでしょう。普通自動車の駐車違反の場合、18000円の反則金を支払う必要があります。こうした罰金制度は、違反者を増やさないための抑止力として設けられていますが、実は罰金は必ずしも抑止力として有効とは限らないという事例は数多くあります。

カリフォルニア大学は、イスラエルの託児所を対象に、以下のような実験を行いました。当初、託児所に子供を迎えに来る親が遅刻しても、何もペナルティはなく、遅刻は平均週8件ありました。そこで遅刻抑止のために、遅刻一回に付き300円の罰金を徴収する制度を導入しました。すると、遅刻をする親は逆に週16件以上に倍増したのです。しかも、再び遅刻のペナルティを無しに戻しても、遅刻の件数は減らなかったという事です。

これは、本来は300円が罰金であるはずなのが「300円の遅刻チケット」と捉えられた事で起きた現象と考えられます。無料の時は遅刻に罪悪感を抱いていた親も、300円の支払いが遅刻の免罪符のように感じたために、後ろめたさがなくなったという裏事情です。

罰金よりも心理的・社会的制裁の方が効果大?!

そして、再度罰金を無しに戻しても遅刻が減らなかった事は、市場規範と社会規範で説明ができます。市場規範とは、金銭的な繋がりを基にした価値の事、そして社会規範とは愛や友情など感情的な関係性から判断される価値感です。これらは、デューク大学のダン・アリエリー教授によって提唱された概念です。

当初、親の遅刻件数が少なかったのは「託児所に迷惑を掛けてしまう」という社会規範があったからです。それが罰金制度が導入された事で「遅刻してもお金さえ払えば良い」と、市場規範として捉えるように変わったのです。アリエリー教授によると、一度社会規範が市場規範に負けると、以後は社会規範が戻るケースはほぼないという事です。

例えば、男性が好きな女性にアプローチを掛けたとします。この時の状況は社会規範です。何度もデートに誘い、食事を奢ったりプレゼントを渡したものの、一向に距離は縮まらない。業を煮やした男は「これまでどれだけお金を使ったと思ってるんだ!」と怒り出します。その瞬間、これまでの社会規範は市場規範に変わってしまいます。以後はどれだけ取り繕っても、女性がこの男を受け入れる事はない・・・となってしまう訳です。

このように、市場規範は社会規範よりも強く表れます。ゆえに、一度遅刻の罪悪感が失われてしまうと、その後に罰金が無くなっても罪悪感は戻らないのです。

また、罰金の300円という金額が割安と捉えられてしまったために、抑止力として働かなかったとも推測できます。利用者側が心理的に損と感じるなら、抑止力が働きやすいです。

例えば、TSUTAYAなどのレンタルビデオ店では、延滞料金を割高に設定しています。DVDの場合、1週間のレンタル料金は100円〜300円程度ですが、延滞料金は一日当たり300円程度(1週間で2000円前後)になっています。300円という延滞料金自体は高くはないですが、レンタル料金と比較すると相当に割高です。そのため、客側は「延滞したら損だ」という心理が働き、期日内に返却される確率が上がるのです。上記の託児所の場合でも、心理的に損と感じる罰金額が設定されていれば、結果は違っていたかもしれません。

抑止力の裏事情〜罰金が有効とは限らない まとめ
・罰金制度を導入した事で逆に違反者が増える場合がある
・罰金を免罪符と捉えられると抑止力にならない
・一度罪悪感が失われると、罰則が無くなっても元に戻らない

そもそも、罰金自体に実行力(強制力)が無いと、賢い相手には全く効果を発揮しません。例えばお店の駐車場に「無断駐車した場合は5万円の罰金を頂きます」などと張り紙がしてあったとしても、それには何の法的拘束力もありません。このような法律の知識がある相手には、無断駐車の抑止力は皆無なのです。

かの有名なバングラディシュのグラミン銀行(※注)は、貸したお金の返済を守らせるために、村人数人での連帯責任制を取り入れて、貸し倒れ率を2%未満にまで抑える事に成功しています。延滞金利を取るよりも、身近な人に迷惑をかけると村八分にあって生きていけない・・・という農村民の心理を利用した方が有効だったという裏事情でした。日本で古来よりある「頼母子講(たのもしこう)」なども同じ原理です。

※注;農村部の貧困層に無担保融資を行い、社会的自立を助成した事で、グラミン銀行の創始者ムハマド・ユヌスはノーベル平和賞を受賞しています。

よって何らかの社会集団でルールを構築する際には、罰金やインセンティブなど金銭面でコントロールしようとせず、社会性(他人に迷惑をかけない、等)に訴えかけた方が有効です。

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